Staff Story vol.3 ファミリーホーム編家庭的な環境のなかで、世界を広げる。
新たなファミリーホームが志す「自立できる場」づくり。
生まれた環境に関わらず、子どもたちが自立できる場を。今村翔さんがファミリーホームを立ち上げた理由とは?
一言では語り尽くせない「AFO(エーエフオー)で働く」の具体的な事例をお伝えするスタッフストーリーの第3弾。今回は、福岡市でファミリーホームを立ち上げた今村翔さんにお話を伺いました。
福岡市内の、とあるマンション。ここは「ファミリーホーム」という形の生活の場で、代表の今村翔さんと、3人の子どもたちが一緒に暮らしています。訪問したときは、夏休み真っ只中。近所の公園で遊んできた4人が帰ってくると、各々リビングでくつろいだり、家事をサポートするスタッフのリザさんやジョディさんと、英語のカード遊びをしたり、あたたかく楽しげなムードが溢れています。
家庭的な環境で、子どもたちと暮らす。「ファミリーホーム」をはじめた理由。
ー「ファミリーホーム」というものを、はじめて知りました。国内でもいま広まりつつあるのでしょうか?
日本では、ファミリーホームもそうですが、里親として養子を迎え入れる文化自体が海外と比べてマイナーで、数も少ないです。そのためファミリーホーム自体もまだまだ少なく、認知度も低いと思います。今だと、福岡ではおそらく13件ほどあるようです。(※2020年8月取材当時)
ーそもそも「ファミリーホーム」とは何か、あらためて教えてください。
子どもがたくさんいる「児童養護施設」と一般の家庭でお子さんを受け入れる「里親」のちょうど中間にあたる家庭養護の一種です。 大人数の施設ではなく、家庭的な雰囲気のなかで子どもを5-6人預かり、里親さんよりも複数人の子供どうしの関わり合いも含めて、一緒に過ごしていく形ですね。 ファミリーホームの制度ができたのが、10数年前。AFOとしてはじめたのが 2020年4月からになります。
ー翔さんご自身は、もともと児童養護の分野で働かれていたのでしょうか?
はい、いわゆる児童養護施設で働いていて、その前の大学生の頃から「いつかファミリーホームをやりたい」と考えていました。
ー大学でも、子どもに関わることを専攻されていたのでしょうか? また、この分野に進んだきっかけはありますか?
「愛知県にある、日本福祉大学で社会福祉を専攻しました。この領域に進もうと思ったのは、子どもたちが経済的理由だったり家庭環境など本人の責任ではないところで可能性の芽が絶たれてしまう現状があることを大学時代に知ったのが大きいです。「どんな環境に生まれても、自立できて、あらゆる可能性を持てる状態にしたい」と心から思いました。
ー日本にいると「生まれた環境や境遇の格差」には気づきにくいところがあるというか、今お話していて「そもそも、国内にもそういった子どもたちがいるのか」とハッとさせられました。
「そうですね。児童養護施設で働いていたときも、同じ地域のひとでも施設自体の存在を知らない方が多い印象でした。実際に制度自体もやや遅れているところがあり、児童養護にまつわる「児童福祉法」も戦後からほとんど変わってきませんでした。 抜本的な改革があったのが平成28年。保護を必要とする子供の9割が施設に行っている現状を、里親やファミリーホームを増やして、受け入れ先を移行する流れになっています。
ー児童養護施設とファミリーホームで、大きく違うのはどのようなところでしょうか?
組織の規模感による違いが大きいと思います。児童養護施設は順当に経験を積み重ねていくと管理職になって、子どもたちと接する時間が減っていきます。そうなると、実際に子どもをみている担当者と、管理職で意見が食い違うケースも多く発生して「子どもがこうしたいと言っていて、担当としてもこうしてあげたい」を組織の論理で実現できないもどかしさがありました。ただ、一般家庭では経験できないような招待行事であったり企業・自治体からの支援など、施設ならではの良い面もあります。
働くひとも子どもたちも、家庭だからこそできる関わりがある。
ーファミリーホームごとに違いや特色がでる部分もありますか?
一般家庭とほぼ同様の環境にあるので、それぞれで大きく違いはあると思います。施設だと保育士さんや、自分のように福祉の勉強をしてきた人が働いていますが、里親は要件をクリアして研修を受ければなることができます。ファミリーホームも里親の延長線上で「家庭の数ごとにそれぞれの形がある」といえます。
ー翔さんのように専門知識もあり、施設で働いた経験もある方がファミリーホームを運営しているのはレアなパターンですか?
あまりないパターンだと思います。
ー子どもたちにとってはいいとこ取りのような環境ですよね。
そう思ってもらえていると嬉しいですが....比べようもないので、どうでしょうか。直接、どう?いい感じ?などとは聞けないですね(笑)
ー翔さんが運営するファミリーホームの方針はありますか?
「ひとりひとりと向き合う」ことが一番大事だと思っています。例えば、以前働いていた施設だと「子どもが暗算や簡単な計算ができない」課題に向き合ったことがありました。保護されるまで学校に通えておらず、同じ学年の子が当たり前にできることができない。そこで公文をとりいれて(公文自体は全くわるくないのですが)泣きながら問題をといたり、強制的にやらされている状況も生まれてしまって。
これってどうなんだろう?と。施設として1対多人数をみたときに、やり方を押し付けてしまい、ひとりひとりの子どもが持っている性格や素質を無視してしまうのは、本末転倒だなと強く思ったんです。
正しいからやらせる、ではなくて、その子ができることから、挑戦する。ここでは基本的なごはんの食べ方や礼儀・マナーなど子どもが社会にでて困ること以外は、特に指導していません。 何かを自発的にやりたいときに、しっかり応援できるようにするのが私たちの役割だと思っています。
ーほんとになんというか、親、ですね。
そうですね(笑)
ースタッフとして海外出身の方が活躍されていて、基本的なコミュニケーションを英語でとることも他のファミリーホームにはない特色ですよね。
こういった「新しい家族や家庭の在り方」に挑戦できるのも、ファミリーホームの良さです。海外のほうが児童福祉全体の制度や文化も進んでいるので、子どもたちを海外留学させる施設もあります。ただ、特別なことをしなくとも海外の文化や言語、特に生活の中で自然な形でふれることができる環境は、いまのところメリットしかないと感じています。
広い世界や多様な価値観を、生活を通じて体感できる環境は国内の家庭だとなかなか実現できません。英語はひとつのツールですが、それだけでも得意だと、他の何か好きなことと掛け合わせたり、自信や行動につながりやすいのは子どもたちにとっても大きなプラスかなと。
ーいま、ファミリーホームは何人で運営されているのでしょうか?
私とリザさん、ジョディさんの 3人と、自分の母が養育補助でついているので計4人です。もともと、海外の方を必須で探していたわけではないのですが、日本人の方の応募がなかなか来なかったという背景もあります。どうしても国内だと里子やファミリーホーム自体の認知度が少なくて。よくわからないから、職場としての選択肢にも挙がってこない。英語で募集をかけると、一挙に5名ほど応募してくださりました。
ーインタビューしている私自身も今日はじめて知ることが多いですが、里親・ファミリー制度自体の認知度の低さも課題でしょうか。
ファミリーホームの運営をはじめてから気づいたのですが、里子だからと特別視される方も学校の先生方とかでもいらっしゃって。 「普通の家庭としてみてください」とお伝えしたことがあります。 高校生の子が、遊びにいった先で里子だからと洋服をもらってきたりとか。普通しないじゃないですか? 有り難いですけど、ふつうに接してくれる方がいい。「かわいそう」という視点が、子どもたち自身にも刷り込まれてしまって、自ら可能性を狭めてしまう側面もあります。養護を必要とする子どもたちが置かれる境遇をより良くするのには、認知を広めていくこともすごく大切です。
最後に、ファミリーホームで働くリザさんとジュディさんにも、話を伺いました。(写真左がリザさん、右がジョディさん)
ーここのファミリーホームで働くまでの経緯を教えてください。
リザ:これまでに、保育園や幼稚園で英会話を教える仕事をしていました。 年齢に関わらず子どもが大好きなので、いろんなシチュエーションで英会話に携わりたいと思って応募しました。
ジョディ:私はご高齢の方と子どもたちにそれぞれ英語を教えてきたことがあるのですが、ファミリーホームが特にいいなと思ったのが、勉強らしくなく、自然な形という部分に惹かれました。
ーやはり家庭的な環境で、というところが違いますか。
リザ:そう、それが本当によくて、授業だと子どもたちが嫌でも時間内に「これを教えないといけない」義務があります。だけどここではリラックスした状態で、ナチュラルに英語に触れる環境をつくることができます。家であって、学校ではないから。幼稚園だったら、先生がきた!というだけで逃げられることもありました。強制してしまうと、英語自体が嫌いになってしまう。
ーそれは想像しただけでも悲しいです。
リザ: 日常的なコミュニケーションや遊びを通じて、英語教育ができるのは私たちが本来したかったこと、目指していたことでもあります。
ー働く時間と1日の流れはどのようになっていますか?
リザ:いまは夏休みだから9:30〜18:00までで、通常のときは11:30〜20:00までです。昼食と夕食をつくったり、掃除、その他の家事、英語のレッスン(ゲーム)、一緒に公園に行って遊んだりします。私がフルタイムで、ジョディさんがパートタイム。
ー主に家事(掃除)や日々のお料理もおふたりが作られているとのことですが、それぞれの出身国の料理も食卓にあがるのは羨ましいなと思いました。
ジョディ:そうそう、インドの家庭料理だとか、リザさんがつくるときはフィリピンの鍋だったり。
リザ:子どもたちと一緒にナンから手作りしたりもします。意外と自分の家の食卓では自国の料理をつくる機会はあまりなくて、その分私たちもここでの料理はすごく楽しい。子どもたちと同じくらい、ジョディさんも私もお互いに今日のごはんは何かな?って楽しみにしています(笑)
編集後記:
取材中も、終始穏やかで和やかなムードが流れていたファミリーホーム。「どんな環境に生まれても、自立できて、あらゆる可能性を持てる状態にしたい」が既に現実のものになりつつありました。家庭的な環境で国際的な体験を育む試みは子どもたちだけでなく「教える側」にとってもひとつの理想的なカタチ、という気づきはすごく広まってほしい大発見です。
募集要項
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2024.09.30
パート/契約社員
サービス管理責任者【サービス管理責任者資格必須】
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2024.09.30
パート/契約社員
相談支援専門員【相談支援従事者初任者研修修了】
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2024.09.18
パート
学校教員・塾講師・家庭教師経験者